みなさまこんにちは。
オンラインショップの朝倉です。
神社な日常、今回は
去る10月15日に開祭された
出雲国一宮熊野大社の
亀太夫神事のレポートです。
正式には「鑽火祭(さんかさい)」
というのですが、どうやら通称の
「亀太夫神事」の方が一般的のようですね。
この神事は簡潔に言うと
火を起こす道具を
出雲大社が熊野大社に借りに来る、
という神事なのですが
いやいやどうして、
簡単には借りられないのです。
なぜ、火起こしの道具が必要かといいますと
出雲大社のいわゆる
「新嘗祭(にいなめさい」の中で
その年に収穫された新穀を調理し、国造が
神様と同じものを食べる儀式があります。
この際の調理に使われる火は、
その神聖な火起こしの道具で
起こしたものでなければならないのです。
この火起こしの道具は
「燧臼(ひきりうす)燧杵(ひきりきね)」
と呼ばれ、下のイラストの様に
きりもみ式で火を起こす道具です。
熊野大社は「日本火出初社」、
「ひのもと ひでぞめの やしろ」と
呼ばれ、日本で初めて神様から人へ
火が授けられたという神社と
伝わっています。
伝えたのはスサノヲ、
火の起こし方は先程のきりもみ式です。
イラストにある棒状の物が「杵」、
下に置いてある板状の物が「臼」と
よばれる道具です。
さて前フリが長くなりました。
それでは当日の神事を
式次第に沿ってご紹介します。
社務所前に整列する神官と亀太夫。
緑の装束の方が亀太夫です。
ちなみにこの亀太夫さん。
昨年まで30年以上亀太夫を務められた方から
バトンタッチされ、
今年初の大役をこなされました。
さて、拝殿にみなさん昇殿され
お祓いの儀式が行われます。
【修祓(しゅばつ)】
祓詞(はらえことば)の奏上。
奏上中は頭を下げます。
続いてお祓いです。
真榊の木の枝と塩湯(えんとう)で
お祓いしてもらいます。
塩湯は名の通り塩をお湯で溶いたものです。
参列者もお祓いしてもらいます。
この時も低頭の姿勢を取ります。
目安は上体を45度傾ける姿勢です。
【祭主一拝】
神事を主催する宮司が
神前で深々とお辞儀をします。
【開扉】
本来であれば本殿の扉を開けるのですが
すでに開けられ、お供え物も並んでました。
宮司は本殿の御扉前に進み、下げられている
「御簾(みす→すだれ)」を
内側に巻き上げます。
この時、下に控えている神官が
「おおお~~ぉぉ」と声をあげます。
これは「警蹕(けいひつ)」といわれ
今回の様に神様の前の扉や簾が
開けられた時などに周囲にいる人が
神様に粗相の無いようにと
発せられるものです。
亀太夫も一緒に神前に出ました。
この後、宮司は階段を上がり、
本殿の扉の脇に座して待機します。
出雲大社側が参進されます。
熊野大社の宮司は出雲大社側の神官が
拝殿にいる時は、顔を合わせません。
神餅(しんぺい)が来ました!
長持の中にはお餅が入っています。
太夫は下級職、対して禰宜は役職名でいうと
宮司の次の役職です。
この神事は出雲大社が熊野大社に
火起こしの道具を借りに来る訳ですが
出雲大社は役付の方が来るのに対し、
熊野大社は下級の方が対応します。
毎年このやり取りが注目されます。
神餅の前で出雲大社は頭を下げ
貸してもらえるまで上げません。
対して熊野大社側は
餅に難クセを付けます。
「色が黒い」
「つぶつぶがある」
「角が丸い」
そして「これでは神餅と言えないので
作り直してきてください。」と。
これ、毎年です(^^;)
出雲大社側は頭をさげたまま
一言も発しません。
悪態の末、亀太夫はついには折れます。
「そうはいえ時間的にも無理でしょう。」
これも毎年同じ口上です。
ここから毎年時事に関した言葉で
条件を出します。
今年はコロナ禍にちなんだ事でした。
「新型コロナの中、出雲大社も日々
収束の祈りを捧げてると思います。
これからもっともっと祈りが必要です。
コロナに打ち勝つためもっと祈りを
捧げると約束してくれますか?」
といった内容でした。
出雲大社はそれでも無言です。
時にはクスっと笑える事を
言ったりするのですが
神事の最中は笑ってはいけないそうです。
亀太夫は迫ります。
「約束してくれますか?」
繰り返し問われました。
約束してくださるならという条件で
亀太夫は餅を引き取ります。
熊野大社の二人の神官に抱えられ
本殿に供えられる神餅。
階段を上がっていきます。
一端拝殿を離れ、燧杵燧臼の保管の建物、
「鑽火殿(さんかでん)」に安置されます。
続いて出雲大社国造の参進です。
現在、国造は体調不良とのことで
権宮司(ごんぐうじ。権=副)の
千家隆比古(せんげながひこ)氏が
代行されました。
出雲大社は拝礼の後
神前で舞を奉納します。
「百番の舞」と呼ばれるこの舞は
傍らの神官から渡された
榊の小枝を両手に持ち
上から円を描くように榊を持った手を
下におろします。
反対側の神官に榊を渡し、
また傍らの神官から榊を渡され・・・
決められた回数で立ち上がり、
また決められた回数で座ります。
この所作を100回繰り返す舞です。
この神事では半分の50回舞います。
伴奏は「板琴」と呼ばれる板状の打楽器を
柳の枝で打ちます。音階は無い伴奏です。
打ち付ける節に合わせ、歌が唄われます。
舞の半分までは「あーああ、んーんん」と
歌詞がありません。
26回目の舞から
「皇神(すめかみ)の
良き日にまつりし明日よりは、
あけの衣をけ衣にせん」と
歌詞が付きます。
神事も終盤です。
本殿の御簾(みす)が下げられます。
また警蹕(けいひつ)の「おおおー」という
声が拝殿内に響きます。
御簾を下げきった宮司がこの後、
やっと下りてきました。
開祭が一拝なら、閉祭も一拝で終わります。
これで神事は滞りなく終わりました。
宮司から挨拶がありました。
「しっかりご縁を結んでお帰りください。」
とおっしゃられました。
玉串拝礼も以前は希望者全員が出来ましたが
今回は氏子の代表の方のみでした。
百番の舞で権宮司が手にした榊は
閉祭後に配られます。限定100本です。
そして、出雲大社が持ってこられた神餅も
切り分けられ参列者に配られます。
以前、出雲大社の神官の方に
この神事の神餅について
教えて頂いた事があります。
神餅は神事の2日前につき、
4つ作るそうです。
一番出来のいいものを熊野大社に
持参するのだそうですが、
毎回ダメ出しをもらうそうです。
今年は拝殿内に参列された氏子さんは
例年の三分の一ほどでしたでしょうか!?
来年は皆様も参列出来ますよう
祈念しております。
以上、亀太夫神事の報告でした。