こんにちは、オンラインショップ担当の中嶋です。
本日は日本人に馴染み深く歴史ある宝石『ヒスイ』
中でも国産であり天然記念物でもある『糸魚川ヒスイ』にスポットを当てて、その魅力をたっぷりお届けしたいと思います。
ミャンマーやアメリカ、ロシアなどでも産出されるヒスイですが、新潟県糸魚川市は国内随一の産地として、そして国産の良質なヒスイが産出されることで有名!『5億年太古の石・糸魚川ヒスイ』って一体どんな石なのでしょう!?
日本人が愛したヒスイ
ヒスイ文化の歴史は中国では約250年前、朝鮮半島は約1400年前、中央アメリカは約3000年前と言われているのに対して、日本では約7000年前の縄文時代に糸魚川ヒスイの文化が始まったと言われており、ヒスイ文化では日本が最も古いとされています。
日本の宝石の原点と言われるヒスイは非常に歴史が深く、古くから日本人が愛してきた石です。
糸魚川ヒスイは縄文時代の中期から後期にかけての約2000年間の遺跡からはヒスイの大珠(※)が出土されており、縄文時代晩期の遺跡からは大珠が激減し、その代わりにヒスイを加工した勾玉が見つかっています。
日本でヒスイ文化が始まって以来、約7000年もの間、枯渇せずに存続していることはまさに驚異的です。
■緑色への信仰
ヒスイは古来より神秘の力があるとされ、権威、富の象徴、魂を鎮める石、再生の石として用いられてきました。そう信じられていたのにはヒスイの緑色に理由があるようです。
日本では古くから緑色への信仰が高く、春になると芽吹く樹木の若葉から生命力を表す色と考えられ、緑色をした石には不滅の生命力・パワーが凝固していると信じ、大切にされてきたのです。
※大珠とは5~10㎝ほどの大きさで楕円形のような形で上の方に穴があけられたヒスイ製品のこと。
5億年太古の石「糸魚川ヒスイ」
古くから日本人に愛されてきたヒスイですが、その文化が古いことに加えてヒスイの歴史は更に遠い昔であることをご存知でしょうか?
新潟県糸魚川市のヒスイは、なんと!日本が誕生するはるか昔…約5億年前にできた天然石と言われています。
このことから『世界最古のヒスイ』と称され、これは「地球上で最初にできたヒスイ」を意味するのです。
約5億年も前に地中深くで生まれた糸魚川ヒスイは、とても硬くて、重いのが特徴です。
国の天然記念物「糸魚川ヒスイ」
国内随一の産地である希少な糸魚川ヒスイは現在、国の天然記念物に指定されています。
昭和の初めに発見されてから国の指定を受けるまで、わずか20年前後の間しか採掘を許されなかった糸魚川ヒスイ。
今私たちが手にすることができる糸魚川ヒスイは、まだ採掘が可能だった頃に産出された秘蔵のヒスイたちなのです。
■一度消えたヒスイ、そして再発見
縄文時代に始まったヒスイの文化は約5000年続きましたが、古墳時代に衰退し6世紀頃には一度姿を消してしまいます。
再び日本でヒスイが発見されたのは1938年と言われ、それまでは糸魚川の地元の住民でさえ川や海にある綺麗な石がヒスイだとは知らず、遺跡から出土するヒスイは大陸から渡来したものと考えられていたそうです。
糸魚川の小滝村で再発見された石を調べた結果、ヒスイであることが分かり、さらに調査したところそこがヒスイの一大産地であること、また文化財として非常に重要であることが分かり、保護の必要性が叫ばれ1956年に国の天然記念物に指定されました。
現在小滝川ヒスイ峡では採掘が禁止され大切に守られています。
糸魚川ヒスイのもう一つの産地である青海川ヒスイ峡では翌年の1957年に天然記念物に指定されています。
※ヒスイが再発見された年は1938年よりも前だったと言う説もあります。
特殊な環境で形成されるヒスイ
地球の誕生は約46億年前、その後やがて大陸ができ、先カンブリア紀以降になると地球の内部が冷えはじめ、その頃世界の数カ所でヒスイを含む岩石が生まれたのが約5億年前と言われています。
ヒスイの元となる岩石はその後地球の温度がさらに下がると、一枚岩だった大陸が次第に分裂を始め、それに伴って生まれた造山運動でさらに限られた場所で純度の高いヒスイが形成されたと考えられています。
ヒスイは、海洋プレート(岩盤)が大陸プレートにぶつかってその下にもぐり込んでいく「沈み込み帯」と呼ばれるところで形成されます。
地下20㎞~30㎞のその場所は、通常温度が600度程度になりますが「沈み込み帯」では、圧力が高い割に温度が低く、これこそがヒスイが形成される条件となっているのです。
沈み込み帯で形成されたヒスイは、ダイヤモンド以上に硬く、比重が高いのが特徴です。これは大変高い圧力で圧縮されたことによるものです。
かなり特殊な環境で形成されるため、産地が限られており、新潟県の糸魚川市は世界でも最古と言われることと、上質なヒスイが採掘できるとして有名です。
国石としての「翡翠」
2016年、ヒスイが日本の「国石」として選ばれました。
日本を代表する石「国石」はそれまで正式に決められておらず、2016年9月、金沢大学で開かれた日本鉱物科学会の総会で「国石」の投票が行われ、花崗岩(かこうがん)、輝安鉱(きあんこう)、自然金、水晶、ヒスイの最終候補の中からヒスイが選ばれました。
■ヒスイが国石としてふさわしい主な理由
・5億年前に生成された世界で最初にできたヒスイ
・世界で最古のヒスイ文化(約7000年前)
・日本で採れる宝石として有名
・有名な緑に加えてラベンダー色など多様性と半透明の美しい風合い
ヒスイによく似た軟玉(ネフライト)って何?
▲ 画像はネフライト
ヒスイについて調べていると必ずと言っていいほど出てくる「軟玉」と「硬玉」
見た目がヒスイによく似ていることから誤って軟玉(ネフライト)がヒスイと呼ばれることもありますが、弊社では硬玉をヒスイ、軟玉をネフライトとしています。
一般的にも日本で硬玉と言えばヒスイを指し、洋名ではジェダイトと呼ばれています。
軟玉(ネフライト)しか産出されない中国では、軟玉が宝石として扱われ、ヒスイと呼ばれることも多くあります。
現在宝石として位置づけられているのは硬玉(ヒスイ・ジェダイト)の方です。
硬玉(ヒスイ)と軟玉について | ||
和名・洋名 | 硬玉・・・ジェダイト | 軟玉・・・ネフライト |
主な構成鉱物 | 硬玉・・・ひすい輝石(輝石の一種) | 軟玉・・・透閃石(角閃石の一種) |
硬度 | 硬玉・・・6.5~7 | 軟玉・・・6~6.5 |
カラー | 硬玉・・・翡翠の七色と呼ばれるほどカラーバリエーションが豊富 | 軟玉・・・硬玉に比べカラーバリエーションが少なく色がやや暗め |
主な産地 | 硬玉・・・新潟県糸魚川市 ミャンマー アメリカ | 軟玉・・・中国 アメリカ ニュージーランド 日本 |
・主な構成鉱物の違い
硬玉(ヒスイ)は、ひすい輝石が集まってできた石で、鮮やかな緑色の正体はクロムによるものですが、糸魚川ヒスイの緑の部分はクロムではなくオンファス輝石が含まれていることが分かってきました。
軟玉(ネフライト)は主に角閃石の一種である透閃石という鉱物で構成されています。
硬玉と軟玉ではそれぞれを構成する鉱物が全く違うため、この二つの石は似て非なる別の石となります。
・カラーの違い
ヒスイ(硬玉)は『翡翠の七色』と言う言葉があるほど豊富な色合いを楽しめるのが特徴です。
一方軟玉も様々な色合いを持つのが特徴ですが、硬玉に比べるとそのバリエーションは少なくやや暗い色味をしています。
翡翠とカワセミ
本来、翡翠とは鳥のカワセミの事。
漢字で翡翠と書いてヒスイと読めば宝石名、カワセミと読めば鳥の名前です。
「翡」は赤色、「翠」は緑色やもえぎ色を指し、カワセミの緑色の羽と、赤いお腹を指しています。天然石のヒスイはこのカワセミから貰った名前です。
逆にカワセミは「飛ぶ宝石」とも言われるそうです。
■翡翠の七色
カワセミに例えられるほど美しく色鮮やかなヒスイは、緑、青、赤、黄色、オレンジ、紫、黒、など多くのカラーバリエーションを持ち『翡翠の7色』とも言われる程です。
実際には7色以上のカラーバリエーションがあると言われています。
※橙・赤橙のヒスイは日本では発見されていません。
ヒスイ(硬玉)の産地
ヒスイの主な産地は主には日本、ミャンマー、中央アメリカ、その他にはグアテマラ、ロシア、カザフスタンなどから産出されていますが、他の天然石に比べると産地が限られているのが特徴です。
日本産
国内のヒスイの産地は、鳥取県若桜町、兵庫県養父市大屋、岡山県新見市大佐、北海道旭川市、長崎県長崎市琴海など10か所ほど見つかっています。
鳥取県若桜からはラベンダーヒスイ、長崎県長崎市の琴海からは灰緑色のきれいなヒスイが産出されますが、宝石になるほど良質なヒスイを多く産出するのは新潟県糸魚川だけと言われています。
ヒスイの殆どは無色または白色のひすい輝石を含んだ岩石状のものが多いのに対して、糸魚川で産出されるヒスイは緑や青色に見える部分にオンファス輝石を含み、これが良質なヒスイを生み出しています。
オンファス輝石はヒスイの主な構成であるヒスイ輝石よりもマグネシウム、カルシウム、鉄分が多く、アルミニウムとナトリウムが少ないと言われています。
糸魚川ヒスイの主な産地
・日本海の注ぐ姫川上流の『小滝川地区(小滝川ヒスイ峡)』
・小滝川地区の中でも特定の場所である『入りコン沢(いりこんさわ)』
・青海川上流の『橋立地区(青海川ヒスイ峡)』
現在では天然記念物に指定されているためどちらの地域もヒスイの採取は出来ません。
■小滝川ヒスイ峡で採れる糸魚川ヒスイの特徴
川の清流によって自然に磨かれることにより原石のままでの十分美しい存在感を持っているのが特徴です。
■青海川ヒスイ峡で採れる糸魚川ヒスイの特徴
かつてラベンダー色の美しいヒスイが多く見られました。紫色になる成分の正体はチタンです。
■入りコン沢で採れる糸魚川ヒスイの特徴
こちらの糸魚川ヒスイは特別に青みがかっており、それはチタンに加えて鉄を含んでいることを表しています。この二種類の成分が入らないと青に発色しないことを考えると他の糸魚川ヒスイに比べてもさらに希少性が高いと言えます。
糸魚川ヒスイが持つ力
■強力なパワーを持つと言われる糸魚川ヒスイ
日本列島の土台をつくる古い地層から産出される糸魚川ヒスイ、そこは一万気圧以上の強い圧力がかかっていると考えられています。
大地のパワーがあるところは強いエネルギーを発すると言われ、糸魚川ヒスイが強い力を持っていると言われる理由も大地の力が関係しているとされています。
■国石、国産の石であることから日本人の波動によく合うと言われる石
心と感情に働きかけると言われ、イライラする感情を鎮め、心を穏やかにさせてくれるとされている。
■魔除けの石
強力な護符として珍重されてきたヒスイ。持ち主を災難や危険から守ってくれると言わる。
■幸運の石
古くから「豊穣、生命、再生」をもたらすものと信じられ「聖なる石」として幸運を運んでくれると言われる。
糸魚川ヒスイの勾玉にまつわる伝説
▲写真は出雲大社で保管されている勾玉の複製品
新潟県糸魚川市を含む現在の北陸地方は、古くは「越(こし)の国」と呼ばれ、『古事記』には出雲の神様「大国主命(オオクニヌシノミコト)」と越の神様「沼河比売(ヌナカワヒメ)」のロマンスが記されています。
大変美しい沼河比売(ヌナカワヒメ)は選ばれしものだけが持つことを許された特別な石、ヒスイの神秘の力を用いて国を治めていたと言われます。
ある時出雲の国の大国主命は、賢く美しい姫の噂を聞いて出雲から越の国へはるばる訪れ、求婚を申し込んだといいます。沼河比売(ヌナカワヒメ)は大国主命に歌を贈答し一日後に求婚を受けれ、結婚したと伝えられています。
二人の間には諏訪大社の神様「建御名方命(タケミナカタノミコト)」が生まれたとされています。
神話が物語るように大国主命を奉る出雲大社の近くにある真名井遺跡からは、日本でも最高品質と思われる大変美しいヒスイの勾玉が出土しており、これは糸魚川産のヒスイの可能性が高いと見られています。
出雲大社の神宝であるこの勾玉は重要文化財に指定され出雲大社(宝物殿)にて大切に保管されています。出雲大社への御参拝の際には宝物殿もご覧になってみてはいかがでしょうか?
※真名井遺跡は出雲大社の境外摂社である『命主社(いのちのぬしのやしろ)』の裏手にあります。
『世界最古のヒスイ』と言われるだけあって糸魚川ヒスイの世界は奥が深く、興味は尽きません。
出雲と糸魚川を結ぶ二人の神様のお話にもロマンがありますよね。石が形成された時代や人々による文化・・・「石を知ることは歴史を知ること」だと改めて実感させられました。
先人たちが大切にしてきたヒスイ…これから先も大切に守り続けていきたいものです。